機能性ディスペプシア

機能性ディスペプシアとは

「胃が痛い」「胃がもたれる」といったディスペプシア症状で受診される患者さんは多くいますが、内視鏡検査などで明確な胃がんや胃潰瘍などの病気が見つからない場合も少なくありません。胃の消化作用や収縮運動、さらには感じ方など、胃の機能に異常があることが症状の原因ではないかと考えられます。そこで生まれたのが「機能性ディスペプシア」(英語表記ではfunctional dyspepsiaの頭文字をとって「FD」と呼ばれる)という病名です。つまり、FDとは「明らかな異常がないのに慢性的にみぞおちの痛み(心窩部痛)や胃もたれなどのディスペプシア症状を呈する病気」を指します。
以前は、こうした患者さんには「慢性胃炎です」と説明されることがありましたが、慢性胃炎とは文字通り、胃に炎症がある場合を指します(多くの場合、ピロリ菌が原因です)。しかし、胃に炎症がなくても症状があることや、逆に胃に炎症があっても症状がないことも多く、胃の炎症は必ずしも症状と関連しないことが明らかになってきました。FDと慢性胃炎は異なる疾患なのです。

ディスペプシアとは

ディスペプシアは、消化不良や胃の不快感を指す一般的な用語です。具体的には、胃もたれ、胃痛、腹部膨満感、嘔気、食欲不振などの症状を包括します。ディスペプシアは、他の特定の病気や胃の異常とは異なり、症状が明確な原因によって引き起こされるわけではありません。胃の消化機能や運動の異常、胃酸の過剰分泌、ストレス、食事や生活習慣の影響などが関与することがあります。ディスペプシアは一般的な症状であり、慢性化することもありますが、重篤な病気ではありません。適切な治療や生活の改善により、症状の緩和や管理が可能です。

機能性ディスペプシアの原因

胃・十二指腸の運動異常

胃排出の異常と胃適応性弛緩の障害が含まれます。胃排出は食べ物の胃から十二指腸への移動を指し、胃適応性弛緩は食事時に胃が広がって食物を貯留する能力です。胃排出の遅さや速さが症状と関連する可能性があり、胃適応性弛緩の障害は早期の満腹感(通常の食事量でもすぐに満腹感が生じること)と関連しています。胃が動くべき時に動かず、動いてはいけ時に動いてしまうといった障害は主に自律神経の失調が関わっていると考えられています。

胃・十二指腸の知覚過敏

少ない刺激で症状が引き起こされやすい状態を指します。健康な人よりも軽い胃の拡張刺激で症状が現れます。また、十二指腸の胃酸や脂肪に対する感覚過敏によっても症状が生じることがあります。

心理的要因

脳と腸は密接に関連しており、これを脳腸相関と呼びます。不安や抑うつ症状、過去の虐待経験により、胃や腸の運動や感覚に変化が生じることがあります。

胃酸過剰

胃から分泌される酸が胃や十二指腸の粘膜を刺激し、運動や感覚に影響を与える可能性があります。

ヘリコバクター・ピロリ感染

ピロリ菌の除菌により症状が緩和することがあります。

ピロリ菌

遺伝的要因

一部の人は生まれつきなりやすい傾向があります。

感染性胃腸炎(サルモネラなど)

感染性胃腸炎を経験した人は機能性ディスペプシアになりやすい可能性があります。

アルコール、喫煙、不眠などの生活習慣の乱れ

不規則な生活習慣が原因となる場合もあります。生活習慣の見直しにより症状が改善することがあります。

胃の形態

特に胃の変形である瀑状胃(上部が拡張した形状)などが症状と関連していることがあります。

機能性ディスペプシアの検査・診断

機能性ディスペプシアは「腹部症状が慢性的に続くが、その原因となる異常が見つからない病気」です。具体的には胃の痛みや胃もたれなどの自覚症状があり、内視鏡検査などで胃がんや胃潰瘍などの疾患が見つからない場合に診断されます。「腹部症状」とは、胃の痛みや胃もたれなどの症状を指し、様々な言葉で表現されます。具体的には食後のもたれ感、早期の満腹感(食事開始後すぐにお腹がいっぱいに感じられ、それ以上は食べられなくなること)、心窩部の痛み、心窩部の灼熱感(みぞおちの焼けるような感じ)などがあります。これらの症状が慢性的に続く場合、機能性ディスペプシアと診断されます。胃カメラ検査やピロリ菌感染の検査、必要に応じて血液検査や超音波検査、腹部CT検査などを行い、胃がんや胃潰瘍・十二指腸潰瘍などの疾患を除外します。

胃カメラ

機能性ディスペプシアの治療

薬物治療

症状の原因に応じて、以下のような薬物治療が行われます。

  • 胃酸分泌を抑える薬(PCAB、プロトンポンプ阻害剤、H₂ブロッカー)
  • 胃の動きを促す薬(アコチアミド、モサプリドクエン酸)
  • 漢方薬(六君子湯など)

一部のケースでは、抗うつ薬や抗不安薬(スルピリドなど)も有効とされています。また、ピロリ菌感染が確認される場合には、ピロリ菌の除菌治療も行われます。

生活習慣と食習慣の改善

規則正しい生活習慣を取り戻すことは、自律神経の乱れを改善するのに役立ちます。胃腸の動きが低下しているため、以下の点に注意しながら改善を図りましょう。

  • 水分を多く摂る
  • 小分けにゆっくりと食事を摂る

また、胃に負担のかからない食べ方(よく噛む、過度な食べ過ぎを避ける、食後すぐの運動を控える)も有効です。

機能性ディスペプシアのよくある質問

機能性ディスペプシアの治療にどのくらい時間がかかりますか?

個人の状態や治療方法によって異なりますが、機能性ディスペプシアの症状を管理するためには時間がかかることがあります。症状の改善には、治療の組み合わせや生活習慣の改善が必要です。短期間で効果が現れることもありますが、長期的なケアが必要な場合もあります。

機能性ディスペプシアはストレスによって悪化しますか?

ストレスは機能性ディスペプシアの症状を悪化させる要因の一つです。ストレス管理やリラクゼーション法などのストレス軽減の方法が症状の改善に役立つことがあります。

機能性ディスペプシアと食事の関係はありますか?

食事は機能性ディスペプシアの症状に影響を与えることがあります。特定の食品や飲み物が症状を悪化させることがあります。自身に合った食事の見直しを行うことが重要です。食事の回数や量、噛む回数、食事と症状の間の時間などに気を配ることが助けとなることがあります。