過敏性腸症候群の薬

過敏性腸症候群とは

過敏性腸症候群は、一般的にIBS(Irritable Bowel Syndrome)としても知られています。腸にポリープや炎症などの明確な疾患はないにもかかわらず、慢性的な腹痛を伴う下痢や便秘などが起こり、排便すると痛みが軽減する特徴があります。過敏性腸症候群は、ストレスや精神的な要因が影響して腸の蠕動運動にトラブルが生じることで発症すると考えられています。
近年、現代社会において過敏性腸症候群の発症が増加しており、消化器領域の疾患の中でも特に多い疾患です。日本人の10~20%が影響を受けていると推定されています。この疾患は生死に直接かかわるものではないものの、重症な下痢が発生すると日常生活に大きな制約をかけ、通勤通学時間帯などに頻発した場合には、心身ともに疲弊する可能性があります。したがって、患者の生活の質に大きな影響を及ぼす病気と言えます。
過敏性腸症候群の典型的な症状は、定期的なひどい便秘や緊張時におなかが緩くなることです。これらの症状が日常生活の中で発生する場合、不安や緊張などの精神的なストレスが原因として考えられます。過敏性腸症候群の治療には、ストレスマネジメントやライフスタイルの改善、食事の見直し、必要に応じて薬物療法などが含まれます。

過敏性腸症候群の原因

ストレスが原因であると考えられていますが、ストレス=気のせい、気の持ちようではなく、脳と腸の関係が重要です。脳が強いストレスを感じると、腸の動きに異常が生じ、下痢や便秘が起こることがあります。また、過労や睡眠不足などの身体的ストレスも原因として考えられます。内臓の知覚過敏や食物アレルギー、腸管炎症などの要因も考えられます。

過敏性腸症候群の分類

過敏性腸症候群の主な症状は、便秘型、下痢型、そして交互に現れる混合型の3つが挙げられます。

下痢型

急激な腹痛とともに1日に3回以上の水のような便が排出されることが特徴です。

便秘型

週に3回以下の排便の回数が減少し、排便時に腹痛があります。便が出るためには強く息をしなければならず、出た便は小さくかたまりやすい特徴があります。

混合型

下痢と便秘が交互にやってきます。

ストレスを感じると下痢になるタイプが若い男性に、ストレスを感じると便秘になるタイプが女性に多い傾向があります。性ホルモンの影響が関与していると考えられていますが、詳細な原因はまだ不明です。分類不能型もあります。

過敏性腸症候群の症状

  • 数週間~数か月前からお腹の不調や痛みが続く
  • 数か月にわたり下痢や便秘が続く
  • 兵便すると一時的に痛みが落ち着く
  • 排便回数が不規則になってきた
  • 便の形状が悪い(気になる)
  • 排便しても残便感がある
  • ストレスで症状が悪化する

など

過敏性腸症候群の検査・診断

問診では、症状の内容や持続時間、症状が起こるきっかけや状況などを詳しく聞き取ります。過敏性腸症候群の診断には、世界的な標準であるローマ基準を参考にします。
ローマ基準では、少なくとも過去6ヶ月間にわたって症状が現れ、過去3か月間に1週間に1回以上の腹痛があることが前提とされます。さらに、「排便による症状改善」「発症時に排便頻度が変化」「発症時に便の形状が変化」といった2つ以上の項目が該当する場合、過敏性腸症候群と診断されます。
ただし、過敏性腸症候群の症状は、クローン病や潰瘍性大腸炎などの多くの大腸疾患と共通しているため、採血や大腸官ら検査なども必要不可欠です。これらの検査により、過敏性腸症候群を正確に診断し、他の疾患との鑑別を行います。

大腸カメラ

過敏性腸症候群の治療

食事療法

低フォドマップ食品(低FODMAP食)

フォドマップは特定の炭水化物のグループで、これらを摂りすぎるとIBSの症状が悪化する可能性があります。低フォドマップ食品には、米、米麺、鶏肉、魚、トマト、キュウリ、ニンジン、イチゴ、ブルーベリーなどが含まれます。

食物繊維の多い食品

一部のIBS患者には食物繊維が有効であり、便通を改善することがあります。食物繊維の多い食品には、オートミール、キヌア、レンズ豆、ブロッコリー、ほうれん草などがあります。

プロバイオティクス

乳酸菌やビフィズス菌などのプロバイオティクスは、腸内環境を改善し、IBSの症状を軽減することがあります。ヨーグルト、発酵食品、プロバイオティクスサプリメントなどがあります。

魚や豆腐などの軽めのタンパク源

脂っこい食品や肉類はIBSの症状を悪化させることがあるため、軽めのタンパク源を選ぶことがおすすめです。

心地よい食事環境

食事をゆっくりとることや、リラックスした状態で食事を楽しむことが重要です。急いで食べることや食べ物と一緒に大量の水を摂ることも症状を悪化させる可能性があります。

薬物療法

抗コリン薬 IBS-D(下痢型)の症状を緩和するために用いられます。腸の過剰な運動を抑えることで、下痢の頻度や症状を軽減する効果があります。
抗うつ薬 抗うつ薬の一部は、腸の運動を調節する神経伝達物質に影響を与えるため、IBSの症状に対して効果が期待されることがあります。また、ストレスによる症状の緩和にも寄与することがあります。
筋弛緩薬 IBS-C(便秘型)の症状を改善するために用いられます。腸管の運動を促進し、便通を改善する効果があります。
抗不安薬 ストレスによるIBSの症状を軽減するために使用されることがあります。ストレスに敏感な患者に対して効果が期待されることがあります。